短角牛(たんかくぎゅう)
執筆者:株式会社岩泉産業開発 岸岡健太
【概要】
短角牛は「日本短角種」という和牛の一品種で、日本では岩手を中心とした北東北・北海道で飼育される。岩泉は発祥の地と言われている。厳しい気候や広大な放牧地での生活によく順応し、子育て上手で飼いやすい。その肉質はサシが入りにくい赤身肉が特徴であり、近年はヘルシーで滋味深い味わいに注目が集まっている。
「日本短角種」はスローフード国際協会により「味の箱舟」に指定されている。
【特徴】
岩泉の短角牛は、「夏山冬里方式」で育まれる。山あい標高1,000mに広がる急峻な共同の放牧地に、春から秋にかけて親子の牛が放牧され、放牧中の自然交配によって母牛は子を宿す。放牧地が雪に閉ざされる冬の間は、「繁殖農家」の里の牛舎で飼育され、3月に一斉に子牛が生まれる。
子牛は生まれた年、秋まで母牛と一緒に放牧される。母乳飲み放題である。さらに、放牧地に生える様々な山菜や木の実などの山の恵み、山の湧き水によって、健康に育つのも短角牛の特徴である。子牛はその年の秋からは、「肥育農家」の牛舎で肉牛として飼育される。この期間は、牧草、稲わら、とうもろこしの実・茎・葉をまるごと発酵させた飼料や、穀物を食べて肉質や味を整える期間となる。こうして大切に育てられた短角牛は、24~30か月齢で出荷される。
【誕生までの歴史】
江戸時代の北上山地では製鉄・製塩が盛んに行われ、当時、盛んに荷物運搬用に飼育された「南部牛」によって盛岡や遠方へ運ばれた。交通網の近代化が進んだ明治時代以降は、岩泉地方を中心に南部牛に欧米産「ショートホーン(短角)牛」と掛け合わせての改良が盛んに進められ、1954年に関係機関により現在の「日本短角種」として命名された。
【環境面での評価】
短角牛の放牧地は人里離れた林野に、古くは江戸時代から脈々と続いている。放牧地はイヌワシなど希少な猛禽類の餌場ともなっているほか、希少な草花の生育地ともなっており、風景そのものも評価されている。岩泉町安家森や、櫃取湿原ではそうした風景を観察する事も可能である。
【その味わい】
短角牛肉の格付けはA-2、B-2ランク、比較的締まったその筋肉中にはサシが入りにくく、赤身が特徴である。また、黒毛和牛と比較し、牛肉の旨味を決定する各種アミノ酸含有量が多い事が明らかになっている。さらに、ジビエにも通じる風味の濃さも特徴で、畜産物の工業化が進んだ現代において、牛肉本来のうま味が味わえるとして、プロの料理人からも評価されている。一方で伝統種としての個性の強さから肉質は均一されていないことも特徴であり、課題でもある。
料理法としては、赤身肉であることから薄切りのスライスよりも、厚切りのステーキや、ブロック肉でのローストビーフ・煮込み料理など洋食に適している。
【流通】
岩泉町内においては、JA新いわて短角牛肥育部会の肥育農家4軒が短角牛を肥育し、(株)岩泉産業開発などが牛肉を全国へ販売している。盛岡や東京など県内外のレストランで提供される。岩泉町内では道の駅いわいずみ(4月下旬復活)や龍泉洞温泉ホテル、町内の焼肉店(ぐうぐう亭・ママハウス)などで食べることが出来る。
いわいずみ短角牛を販売している株式会社岩泉産業開発