思い出のかけら
執筆者:岩泉町小本 千葉遥香
台風から8ヶ月がたった今、視線を上に上げると、桜が咲いています。桜の木は濁流に負けることなく、これまでと変わらない場所で、儚くも美しくたたずんでいました。さらに視線を山に向けると、宇霊羅山の木々の命の芽吹きが麓の方から声高らかに輪唱を始めました。
一方、季節は移り変わっても、少しずつしか進んでいかないこともあります。今日は通勤路から見える景色のお話。
我が家は集落を見渡せるような少し小高い場所にあるのですが、あの日の夜は、天空にはこぼれんばかりの星、眼下には轟音と濁流が広がっていました。翌日の薄明かり、湖となった田んぼを目の当たりにしました。水が引けると、集落の一角には、町内すべてのものが流れてきたんじゃないかと言いたくなるほどの瓦礫の山。
友人・知人の安否もわからないなか、国や県に先んじて、誰よりも早く重機に乗り、自宅のある小本地区から岩泉方面に向かってどんどん道路啓開していく友人たち。その友人から、自宅から勤務先までつながる道路が絶たれていることを教えてもらい、しばらくは通勤できないことがわかりました。
その日から2週間ほどで、交互通行ではありましたが、道路がつながりました。現在は、幹線道路上からは瓦礫は姿を消し、アスファルトも敷かれました。
しかし、視線をずらすと、まだ手つかずの河川や、災害廃棄物の山。集積所は、遠くからみると瓦礫の山ですが、近づくとそこには確かに思い出のカケラたち。4月の末に、県の会議にて災害廃棄物の処理完了が再来年3月と示されました。
しばらくの間は通勤途中の景色は変わらないままとなりそうです。思い出が処理され終わるその日までに、私たちはどんな思い出を重ねていけるのか。
同世代の若者たちとこの町にどんなおもしろいことをしていけるのか。よそ者、馬鹿者、若者らしく、奮闘の毎日です。